ソロバンを見直す    
教育評論家 平井雷太氏

「 数字がスラスラと言えても、それが具体的な量に結びつかないことが 問題だ」と問題提起をしたのは故・遠山啓(東京工業大学名誉教授)氏である。そこで、彼は具対物と数の橋渡しをする道具として「タイル」を使ったが 、なぜ彼は数を量で表すとき、日本の伝統文化の所産である四珠ソロバンを使わなかったのであろうか。
今、小学校では新入生に「数のセット」をあてがって、数え棒とかおはじきとかタイルを使って数や量への導入を行っている。中でもタイルは数え棒やおはじきに比べれば、計算法則の仕組みを伝える道具として格段の機能を発揮する。丸いおはじきでは一つひとつをつなげることができないが、四角いタイルならそれができるからだ。

タイルを使えば、一の位の部屋にあるタイルが10個集まって1本の棒になる。それが十の位の部屋に入り、その棒が10本集まると1枚の板になって、百の位の部屋に入りと数を具体的な大きさのあるタイルに置き換えて、位取りを説明することができる。

だが、タイルに置き換えて数を表現できるのはせいぜい999まで。それ以上になると、子どもの机の上では到底操作することができないほどの大きさのタイルになってくる。その点、ソロバンは途方もないほど大きな数字を一本のソロバンの中で表現してしまう。これは大変な道具ではないかと思えるのだ。 また、タイルを使って数を数えるときには、ゾウ一匹も人間1人もコップ1個も同じタイル「1」で表すことができると伝えられるが、それがソロバンだと、3も30も300も同じソロバン珠「3」個で表すことができてしまう。同じ大きさの三珠であっても、それがどの位置にあるかでその単位が違ってくる。

ソロバンを使えば、タイルよりも抽象度の高い量を具体的に表すことができるというわけだ。 そればかりか、タイルやおはじきは、一つひとつがバラバラになって計算操作はやりにくい場合があるが、ソロバンであれば全部つながっていて、簡単に繰り上がり・繰り下がりの計算操作ができてしまう。上梁に設定されている五珠と下梁の珠二つで7というように、数を簡単に量で表すことができる。位置の位に数を9までしか入れることができないから、10であれば左となりが十の位なので、下梁に珠1個を置けばいい。

そう考えるとソロバンを使うことで、数を量で表現し、計算の法則もこれを使って学ぶことができることがわかる。つまり、ソロバンの構造そのものが、「量の概念」や「繰り上がり・繰り下がりの仕組み」を理解する上でも、これ以上恰好の道具はないと言えるだろう。

日本の伝統文化はこのように素晴らしい道具を生み出しているにもかかわらず、小学校で数の導入のときにソロバンを使ったという話を聞いたことがない。ソロバンの効用を再認識してみてはと思うのだが、いかがだろうか?

数学セミナー(日本評論社発行)1995.12月号Tea Timeより 抜粋


©1998 Tomoe Soroban