電卓とワープロ
                石川島播磨重工業株式会社
                       代表取締役社長 伊藤 源嗣 

 私は小学校の高学年のころ算盤塾に熱心に通ったものだった。当時は暗算をしようとすると、頭の中に算盤珠が浮かび三桁位の加減乗除は苦も無く暗算することができた。今でも熱心に算盤に取り組んでいる方々も居られるが、大多数は電卓に取って代わられたのではないだろうか?
 九九の暗唱に始まり、算盤の活躍もあってつい二、三十年前までは日本人の暗算の能力は欧米人と比べても、また近隣諸国の人々と比べても群を抜いていたように思う。
 当時外国に旅行すると釣り銭は差し出した紙幣の金額と支払額の差を小銭を積み上げて埋める(例えば四十八ドルの支払いを百ドル札でするとまず二ドル足して五十ドル、さらに十ドル札一枚で六十ドル、最後に二十ドル札を二枚足して百ドルという具合)のが通常だったし、税の計算には随分時間が掛かったものだった。わが国では露店等でおばさんたちが釣り銭を数えるのはほとんど暗算だったし、消費税が導入された際、同様に外税の金額がほとんど暗算で計算されていたのも記憶に新しい。ところが今では電卓の普及で我々の暗算能力はすっかり低下してしまった。
 似たような事が漢字の読み書き(特に書く)能力でも起きている。パソコン、ワープロに仮名文字で入力し変換キーを押すことで必要・適切な漢字が出てくる。その結果、手書きで文章を書こうとするとさっぱり必要な漢字が思い出せないという経験は広く読者の皆さんもされていないだろうか?
 これからは便利になった、と言ってしまえばそれまでだが我々の頭脳の記憶能力が低下していることは間違いないように思う。能力の低下は長い間に能力の退化につながらないだろうかと不安に感じているが門外漢の妄想だろうか?