脳の思考法とそろばん
日本医科大学 情報科学センター 河野貴美子


最近、そろばんというとすぐ、右脳とかイメージという言葉が聞かれるようになりました。右脳そのも のが非常に肯定的なイメージで捉えられているようです。私の専門は脳生理学で思考時の脳の活動を脳波 で調べることをテーマにしています。さまざまな脳活動が対象ですから、気功、催眠、将棋、音楽、香り、 スポーツなど、あらゆる場合の脳波を測定してきました。そろばんや暗算もその一つです。

  通常、計算は論理・分析的な左脳の機能といわれています。学生を対象とした実験から、平均的には確かに左が主に 使われていることを確かめました。ところが、珠算有段者の暗算中を計測したところ、左側頭をほとんど使 わず、右後頭部を主に使っていたのです。後頭部は視覚野です。その右側が主に使われているということは イメージがくっきりと浮かび、そのイメージだけで処理しているということでしょう。   将棋のプロ棋士の実験も何例も行ないました。羽生さん、谷川さん始め、みなさん生懸命将棋の手を考え ているときには、やはり同じような脳波のパターンでした。将棋も論理的な思考の内でしょう。でも、その 道のプロともなると、左脳でひとつひとつ順を追って、あらゆる手を確かめてなどいません。  

ところが、 現在のコンピュータはそういう方法でしか処理できないのです。先日、最多手数の詰将棋をパソコンソフト が解いたというニュースがありました。チェスも世界チャンピオンに挑んだコンピュータが勝利を納めまし た。でもそれは、今のコンピュータの高速・大容量の性能を駆使し、力任せに解いた結果です。   わずか 1.4リットルのヒトの脳が、いとも簡単に行なうイメージ思考やひらめき思考は今のコンピュータが決して まねのできない処理方法です。この思考法を充分活用してこそ、人間本来の能力が発揮できるというもので しょう。21世紀は脳の時代とか、一度じっくり、自分の脳で自分の脳の思考過程を考えてみるのもいいか もしれません。




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