「珠算学習の魅力と効用」
               松下電器産業株式会社 珠算部監督 岡田秀樹

 珠算教育界は、長い間厳しい環境に置かれてきました。珠算学習者の減少、先生方の高齢化など、ここ20年の間業界としての活力を減退させていく状況が続いてきました。21世紀に入り、このような状況に歯止めをかける「きざし」が見えてきているように思います。そのきざしとは、大きく「学校教育のうねり」と「マスコミのうねり」でしょう。小学校から珠算塾の先生に派遣要請が来ている、
これは、小学校の教育の中で珠算が見直されつつあり、珠算教育のプロが渇望されている証でありましょう。現在の日本の初等教育において、「読み書き計算」等の基礎学力の低下はきわめて深刻な問題です。この問題に対する効果的な処方箋のひとつとして―珠算学習に熱い視線が注がれつつある―珠算教育界として絶好の機会が訪れようとしています。また、「フラッシュ暗算」を中心とした「マスコミのうねり」も注目に値します。いわゆる「バブル崩壊」後マスコミも何でもいいから儲かりそうなものに飛びつくという傾向がしだいになくなり、本物の価値を見極め・見直そうという姿勢が鮮明になってきました。そのような中での珠算への注目は大変有り難く喜ばしいことです。

 珠算教育界は、きざしの見え始めた現在の「アドバンテイジ」を活かしていかなければなりません。今年から来年にかけてが勝負ということになるでしょう。そこで大事になってくるのは、原点に返り珠算学習の本質的な価値を見つめ直すことではないかと思います。幹になる考え方を整理し、強力に継続して訴えかけていくことが何よりも重要です。

 そこで、私なりに最近の体験も踏まえ、珠算学習の魅力と効用について大きく三つにまとめて整理をしてみました


<珠算学習の魅力と効用>

@脳が活性化される。

 昨年の9月、私は、フジテレビの特番にわずかな時間でありましたが、出演させていただきました。この番組は、脳・肌・胃腸など体の各部分の若返り法を紹介する番組でしたが、私は、珠算の熟練者は脳が活性化されて脳の年齢が実際の年齢よりも若いはずだということで出演の依頼を受けました。今は脳年齢測定ソフトというものがありまして、これは、パソコンの画面上を泳ぎ回る数字を順番に素早くタッチしていく速さで脳の年齢を測定できるというもので、番組の中で測定した私の脳年齢は25才という結果で、実際の年齢よりも15才若いということで、珠算学習が脳の活性化に効果があるということを実証することができました。

A集中力・持久力が養える。

 今、珠算界では、そろばんトライアスロンというものが静かなブームになりつつあります。今年4月に松山で開催されましたそろばんトライアスロンに行かせていただいたのですが、生徒さんたちの集中力・持久力に感心させられました。それぞれ1時間で掛け算、割り算、見取算各100題を計算するのですが、約200名の参加者の誰一人として、途中で投げ出したり、手抜きをしたりしないのです。私も長い間珠算に関わってきましたが、そろばんトライアスロンを見て改めてそろばん学習のすごさを実感した次第です。

B大人になっても役に立つ。

 買い物の時など、日常生活の中で暗算が得意ですととても助かります。実社会に出るとそろばんは役に立たないという見方が大勢を占めているようですが、実情は少し違うように思います。電卓・パソコンが普及している今日、若い人達の数字感覚は退化し、このことは、企業の実務の第一線の管理者の間でも大きな問題とされてきています。そろばんは単に計算する道具ではなしに数字からみた物の考え方・判断力を養い、計数感覚の習得を通じて仕事の成果を高めるものと言えます。松下電器ではそのような珠算の効用に着目し、40年近くにわたり珠算枠で女子社員を採用し、経理や人事を中心に配属させ仕事の精度・スピードという面で大きな成果を挙げております。

 以上のように、珠算学習は人間の能力を高め生きていく上でもおおきな武器となるものです。であるからこそ、シンガポール・台湾・中国・タイ・アメリカ・ブラジルなどの諸外国でも珠算が注目され、珠算学習者が増加しているのでしょう。

 珠算というものは、我々日本人が優秀な民族であると言われてきた、そのベースを築いてきたものの一つではないかと思います。今、日本は産業分野において中国を中心とした国々に猛烈な追い上げを受け、産業競争力を失いつつあります。国の競争力の源泉となるものは何かといいますとそれは、確固たる教育にあると思います。かつて、競争力を失いつつあったアメリカを救ったのは、レーガン大統領による教育改革・教育の底上げであったことは広く知られています。今、珠算教育に携わる者に最も必要なことは、今一度珠算学習の効用を再確認し、次代を担う子供達により効果的な珠算学習の機会を提供することではないかと考えております。

 事業の利益は、その事業の社会貢献度を図る尺度である、という考え方があります。この考え方からすると低収益や赤字は社会の人・物・金を使って社会の無駄を生み出していることになります。珠算教育という事業が現在、成長性が低く儲かっていないのは、その「やり方」に問題があるのであって、その事業領域である「珠算」自体は十分に社会貢献を果たしうるものであります。今後、「やり方」の改善によって珠算教育という事業を社会貢献度の高い儲かる事業へと変えていくことは十分可能であると考えております。

 私も一人でも多くの若い珠算学習者が松下電器で自己実現を図ることができるように社業と珠算部の維持・発展に努力して参りたいと思っております。
     ハワイ・ホノルルのアラモアナショッピングセンターで見取り算のデモンストレーションを
       している岡田監督